新規事業や新しい企画を任されると、「自由に考えていい」と言われたはずなのに、いざマーケティング戦略を考え始めると、何を根拠にどこから組み立てればいいのか分からなくなる——そんな経験はないでしょうか。

前の記事では、そんな状態から抜け出すための最初の一歩として、事業のアイデンティティ(=なぜこの事業をやるのか)を定めることについてお伝えしました。

本記事では、その次のステップのマーケティング戦略を具体的に策定する方法をご紹介します。
すでに事業のアイデンティティはある程度言語化できた前提で、

  • フェーズごとのターゲットの考え方
  • STP・3C・ペルソナ・CJM・4Pといったフレームワークの使いどころ
  • 実務で迷子にならないためのコツ

をまとめていきます。

ターゲットをフェーズごとに設定する

アイデンティティが決まったら、次に考えるべきは「誰に届けるか」です。

“フェーズごとにターゲットを設定する”という考え方を取り入れましょう。

この段階では、ペルソナのように細かい情報を揃える必要はありません。

話していくうちに、自然と人物像が具体化されていきます。まずは、「どんな人たちに価値を届けたいのか」という方向性をチーム内で共有することが大切です。

なぜフェーズごとにターゲットを変える必要があるのか

事業は、立ち上げ初期から成長・拡大まで、フェーズによって目指す市場も顧客層も変化します。最初から「誰にでも届く」商品やサービスを狙うよりも、まずは最も強く共感してくれる層に集中した方がスピードと精度が上がります。

事業が市場に浸透していくプロセスを踏まえ、ターゲットを段階的に絞り→広げる、という設計を意識しましょう。

また、フェーズごとのターゲット設定は、自社のリソース(予算・人員・時間)との兼ね合いで考えることも重要です。

限られたリソースの中でどの層を最優先に狙うかを見極めることで、無理のない成長ステップを描けます。

初期フェーズのターゲット設定例

  • 初年度(立ち上げ期):20代女性など、価値観が合いそうな“共感層”

  → SNS・口コミなどを中心に、ストーリーや想いでつながる。

  • 成長期(2〜3年目):30代ファミリー層など、より幅広い購買層

  → 実用性・利便性・信頼感を重視した訴求へ拡大。

最初から「誰でもOK」にするのではなく、“誰から始めるか”を戦略的に決めることが、最短で成果につながります。

主要フレームワークで戦略を整理する

アイデンティティとターゲットが定まったら、次はフレームワークを使って戦略を整理します。フレームワークは“答えを出すもの”ではなく、“思考を整理するためのツール”です。目的を明確にして、必要なものだけを使いましょう。

STP分析とは?

誰にどんな価値を届けるかを整理する

マーケティング戦略の起点となるのがSTPです。アイデンティティで定めた“存在意義”を軸に、どの市場で・誰に・どんな価値を提供するのかを明確にします。

  • S(Segmentation)市場を区分する

  市場を属性・行動・ニーズなどで分け、自社が狙える領域を洗い出します。

  • T(Targeting)狙うセグメントを決める

  最も共感してくれる層、もしくは初期のリソースで最もリーチできる層を選びます。

  • P(Positioning)どんなポジションを取るかを定義

  競合との違い、自社だけが提供できる価値を明確にし、顧客の頭の中に“位置づけ”をつくります。

3C分析とは?

自社・競合・顧客の関係を俯瞰する

3Cは「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点で市場を分析する手法です。3C分析は、「どこで勝てるか」を見極めるための地図のようなもの。STPと組み合わせて使うと、自社の“勝ち筋”がより明確になります。

  • 顧客(Customer):どんな課題・欲求を持っているか?
  • 競合(Competitor):どんな強み・戦略を持っているか?
  • 自社(Company):自社の強みはどこにあり、何で差別化できるか?

ペルソナとは?

理想の顧客像を具体化する

ペルソナとは、サービスを届けたい「理想の顧客像」を一人の人物として描いたものです。デモグラフィック(年齢・職業・年収など)に加え、価値観・行動・購買動機・情報収集方法まで具体的に整理します。

ただし、業界によって重視すべき要素(変数)は異なります。

そのため、事業の目的や販売戦略、マーケティング手法(情報の届け方)などを踏まえて、今回の事業に合った要素を取り入れて設計することが鍵です。

たとえば——

業界

BtoC(消費財・メディア)

BtoB(法人サービス)

ペルソナ設計で重視する変数の例

年齢・ライフスタイル・利用シーン・価値観・SNS利用動向

職種・業種・意思決定権・課題・導入目的・予算

例:時短レシピ漫画の企画者の場合

ペルソナ:中村 彩さん(29歳・都内在住・広告代理店勤務)

  • 家族構成:夫(31歳・会社員)との2人暮らし

  • 生活背景:平日は帰宅が20時以降。自炊したいが、疲れて外食・惣菜に頼ることも多い

  • 価値観:健康的な食生活をしたいけど、調理に時間をかけたくない

  • 情報源:Instagram・YouTube・レシピアプリ

  • 課題:手軽で美味しく、見た目もかわいい時短メニューが知りたい

  • ニーズ:「“自分でも作れるかも”と思えるリアルな漫画レシピ」を求めている

このように、ペルソナを明確にすることで、コンテンツのトーンやビジュアル表現、配信チャネルの選定が具体的に見えてきます。

カスタマージャーニーマップ(CJM)とは?

顧客体験を可視化する

CJMは、顧客がサービスを知る→興味を持つ→利用する→ファンになるまでの体験を時系列で整理するフレームワークです。

✓ フェーズ

顧客の行動・心理

接点(チャネル)

改善・強化ポイント

✓ 認知

SNSでレシピ動画を見て興味を持つ

Instagram / TikTok

短尺・ビジュアル重視の投稿で「保存したい」を狙う

✓ 興味・比較

実際にレシピを検索・漫画を見る

自社サイト / note

漫画内に「材料リンク」や「時短術」を入れて価値訴求

✓ 体験

実際に作ってみる・感想を投稿

自宅 / SNS

再現しやすい・投稿したくなる設計を意識

✓ 継続・ファン化

他のレシピも読む・友人に共有

LINE / メルマガ

継続フォローや季節テーマ特集で再訪促進

4P分析とは?

マーケティング施策への落とし込み

ここまでの分析結果をもとに、具体的な施策へ落とし込む段階です。4P分析は、「顧客に価値をどう届けるか」を4つの視点で整理するフレームワークです。このとき、判断の軸は常にアイデンティティとターゲットです。

要素

意味

時短レシピ漫画の例

Product(商品)

提供する価値・体験。商品そのものだけでなく、顧客が得る“価値体験”を定義する。

「疲れていても作れる・共感できる日常」をテーマにした3分漫画レシピ。読むだけで癒やされ、実践もできるコンテンツ。

Price(価格)

顧客が納得する“価値とのバランス”を設計する。無料/有料だけでなく、時間や手間のコストも含めて考える。

無料でアクセス可能。将来的には広告・タイアップ・書籍化などで収益化。時間的コストの少なさも「価格価値」として設計。

Place(流通・チャネル)

顧客がどこで・どのように接触するかを設計する。オンライン・オフラインを問わず最適な導線をつくる。

SNS(Instagram・YouTube)を中心に配信し、LINE公式で再訪導線を設計。のちにWeb連載や電子書籍展開も視野に。

Promotion(プロモーション)

認知からファン化までのコミュニケーション設計。誰に・どんなメッセージで届けるかを明確にする。

SNS広告、インフルエンサーとのコラボ投稿、UGC(読者投稿)を促進。読者の共感を引き出す「共感型ハッシュタグ」施策を展開。

マーケティング戦略を進める上でのコツ

マーケティング戦略は、一度立てたら終わりではありません。実際に動かしていく中で何度も見直し、磨き続けることが必要です。

大切なのは、抽象化と具体化を行き来しながら少しずつ精度を上げていくこと。最初から完璧を目指さず、仮説を立てて動き、結果をもとに修正していく姿勢が成果につながります。

考えが止まったときは、情報をインプットして“頭の材料”を増やすか、STPや3Cなどの他のフレームワークに立ち返って整理してみましょう。

そして、戦略は一人で抱え込まず、関係者との対話を通じて共通認識を育てることが重要です。

マーケティング戦略は「作るもの」ではなく、「育てていくもの」。チーム全体で少しずつ言葉を磨きながら、自分たちらしい形を築いていきましょう。

まとめ:マーケティング戦略を推進するために必要なこと

マーケティング戦略が止まってしまう原因の多くは、「考えるべきことが多すぎて、どこから手をつければいいかわからない」という状態にあります。その停滞を突破するために大切なことは、次の3つです。

抽象化と具体化を行き来すること

マーケティングは、抽象化(方向性の確認・仮説)と具体化(リサーチ・施策・数字)を行ったり来たりしながら精度を上げるプロセスです。

「考える → リサーチ → 施策 → 振り返り → 再考」という循環を回すことで、戦略は徐々に洗練されていきます。戦略づくりは“考えること”ではなく、“磨き続けること”。自分たちらしいマーケティングを形にしていきましょう。

周囲との“共通認識”をつくること

一人で戦略を抱え込むと、判断基準が揺れたり、議論がかみ合わなくなりがちです。チーム内で方向性や言葉の定義をそろえることで、意思決定のスピードと精度が格段に上がります。

必要なフレームワークだけを選んで使うこと

フレームワークは埋めるためのシートではなく、“考えを整理し、共通認識をつくるためのツール”です。

STP・3C・ペルソナ・CJM・4P……すべてを完璧にやろうとする必要はありません。事業フェーズや目的に応じて、いま必要なものだけを選んで使うことこそが、戦略を前に進める最短ルートです。

マーケティング戦略は、一度作って終わりではなく、情報を集めながら磨き続ける“育てるプロセス” です。

あなたのチームが、自信を持って戦略を描き、実行できるようになることを願っています。